事例(1) 複数の特許出願

ひとつの発明に対する複数の特許権

A社は、Heイオンビーム等の重イオンビームを半導体中に打ち込むことで耐圧特性を改善する発明を創作し、特許出願と審査請求を行いました。この発明は、従来行われていたH+イオンビームを半導体中に打ち込む技術において発見された「耐圧が下がり得る」という課題を解決するための新技術でした。審査の結果、審査官は同A社の先行発明を引用したうえで、「今回の発明は進歩性に欠ける」と拒絶理由を通知してきました。先行発明と本願発明との細かな差異が争点となったのです。

ひとつの発明に対する複数の特許権

解決手段

拒絶理由に対する対処方針(請求項の補正案と意見書で述べる反論案)を提案し、A社の本願発明の発明者と打ち合わせを行いました。

先行発明と本願発明とは別物

ひもといていくと、先行特許文献の発明と本願発明との間には課題解決手段としての関係が厳密には成立しないことが判明しました。そこで、その点を全面的に主張する反論を展開するとともに、先行発明と本願発明とを一層区別化するために請求項の一部を補正すべきではないかと提案。審査官が用いた引用文献は本願発明の進歩性を否定するための根拠として利用できない旨を意見書に盛り込みました。

分割出願

反論と同時に、本願発明の特徴をより明瞭にするために、請求項の補正を目的とした手続補正書を提出しました。加えて、本願の補正後の請求項よりも射程範囲が広がった別の請求項も作成し、その別の請求項を有する分割出願を特許庁に提出したのです。

通常であれば「二重特許の禁止」から、先に提出された特許発明(親)を含む後願の発明(子)は拒絶対象となります。しかし、分割出願は、その要件を満足している場合には、分割出願の基礎となる親出願と同日に提出されたという遡及効を有するため、2以上の同一発明が同日に出願された同日出願のケースと同様に取り扱われます。この場合、親出願の特許発明の技術的範囲が分割出願の発明のそれよりも広くて特有の効果を奏する場合には、分割出願は特許査定されます。この場合との取扱い上の公平性を図るという観点から、後願(子)の分割出願に係る発明の技術的範囲の方が親出願のそれよりも広い場合であっても、後願の分割出願が特許査定される旨が特許審査基準に規定されています。この仕組みを巧みに利用して、親出願の特許発明よりもその技術的範囲が広い分割出願を行いました。

結果

本願発明に対しては、反論及び請求項の補正が功を奏して特許査定が成され、その結果、特許権が成立しました。分割出願については、予測通り「二重特許の禁止」に基づく拒絶理由が通知されましたが、上述の内容を詳細に述べて反論することで、分割出願にも特許査定が下されて、より技術的範囲が広い特許権を成立させることに成功しました。

これにより、ひとつの発明に対して請求項の記載が異なる2つの特許権が付与されたことになり、特許権による発明の法的保護がより一層広範囲に成り、そして強固なものになったのです。

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